第70章 クリームソーダ
(Sサイド)
午前中、塾があった。
帰り道にある自販機の商品が幾つか入れ替えられていて、その中のある飲み物が目に止まった。
「あ〜懐かしいなぁ…」
それは、小さい頃によく飲んでいたクリームソーダ。
緑のシュワシュワにバニラアイスとさくらんぼ。
緑と白と赤の彩りが綺麗で…
そんなことを思い出していたら、耳の下辺りから唾液がじわじわと出てくる感覚がして、無性に飲みたくなってきたんだ。
「たしか喫茶店があったはず…」
一度も入ったことはないけど、チラッと窓から覗いたことはある。
テーブルとカウンター合わせて20席ほどの喫茶店。
飴色の古めかしい雰囲気が素敵だなと思っていた。
カラン…コロン…
「いらっしゃいませ」
カウンター越しから声をかけてきたのは、人のよさそうな40代後半くらいの人。
マスターかな。
お昼過ぎのせいか、お客さんは5人ほどだった。
対応しているのは、高校生の俺と同じくらいの歳に見える男性店員さん。
チラッと横顔しか見てないけど、身のこなしがスッとしていて…何故か惹かれるものがあった。
フロア内全体が良く見える、窓側の席に着く。
すると、マスターらしき人がお水とメニュー表を持ってやって来た。
…あの人に来て欲しかったなぁ、なんて。
「クリームソーダお願いします」
「かしこまりました」
マスターがカウンターへ戻っていく。
俺はすぐさまさっきの店員さんへ目を向けたんだ。