第70章 クリームソーダ
(Oサイド)
「あ〜やっちまった…」
喫茶店のバイトを始めてから2年。
俺は初めて大きな失敗をしてしまった。
日曜日のお昼過ぎ。
注文されたクリームソーダを、お客様のテーブルに持って行った時だった。
二人がけのテーブル席には、本を読む若い男性が1人で座っていた。
「クリームソーダでございます」
「ありがとう」
そう言って俺を見たその人。
色が白く大きな瞳、赤く厚みのある唇、前髪と襟足が長めの黒髪。
息を飲むほどの綺麗さ。
ドキリ…
「あっ」
手を離すのが一瞬早くて、グラスが傾いてしまった。
咄嗟にその人がグラスを押さえてくれたから倒れずにすんだけれど…
さくらんぼは床に落ち、バニラアイスはその人のズボンの上で溶け広がってしまっていた。
「申しわ…」
謝ろうとするとその人がシーっと自分の唇に人差し指を当てて、俺の言葉を制止させた。
気づいたマスターが近づいてくるのが視界に入る。
心臓はバクバクし、体は震えが止まらなかった。
その人は手をあげて
「ごめんなさい、手が当たってこぼしてしまいました」
まるで自分が悪かったかのように、少し大きめの声で言ったんだ。
「新しいものをお持ちします。大野くんは拭くものを用意して」
「は、はい…」
チラッとその人を見るとニコッと微笑んでくれた。