第68章 ボクと先生の事情
保健室の出入口で3人を見送った大野先生が、僕のいる方にゆっくり近づいてきた。
「先生、カギは…」
「さすがに今このタイミングで閉めるわけにはいかないからね…」
「ですよね」
先生が僕の正面に椅子を持ってきて腰掛けた。
昨日あんなことをしていただけに、先生の顔を間近で見るのは恥ずかしい。
視線を反らそうとしたら、自然と下を向いてしまった。
「今日はどうした?もう来ないって言ってたから、また家で何かあったのかと…」
俯いている僕の髪を、先生の手が優しく撫でる。
僕は今にも先生に抱きつきたくなる気持ちを堪えた。
「家のほうは何もないです」
「それなら良かった」
「ただ…。指が…人差し指が痛いんです」
「指?」
さすがに歯形は消えてはいるけど赤紫色の痕ができている。
その指を、先生がじっと見ている。
そうだよ、先生。
そうやって、いつまでも僕を見ていてほしいんだ。
「それ…昨日の…あの時にできたんです」
「そっか」
大野先生が救急箱に手を伸ばし、フタを開け始めた。
僕は視線を少しずつ上げてみる。
集中している時に唇を尖らせる先生。
年上だけど、可愛いなって思う。
「ん?見とれてるのか?」
「ちがっ、いや…見とれてました」
「んふふ、正直でいいな。」
先生も何だか嬉しそうにしながら、包帯を取り出していた。