第68章 ボクと先生の事情
その翌日も…
僕は保健室に足を運んだ。
もうここには来ないって昨日はそう言ったけど、僕なりにまた来る理由ができたから。
「あのぉ…大野先生…。」
先生は一瞬びっくりしたようだけど、すぐにいつものふにゃんとした顔を見せてくれた。
そしてカギはかけずに、僕を椅子に座るよう促した。
ふとベッドのある方を見る。
ドキッ…
ベッドの下には上履きがあって、誰か休んでいるようだった。
学校の保健室なんだから、生徒がいてもおかしくはない。
だけど…
先生とそこにいる人との間には何かあったの…?
あの空間は、僕と先生のものなのに…。
そんな思いが頭をよぎり、胸がチクッとしてモヤモヤし始めた。
「…櫻井、どうした?」
先生が俺の顔を心配そうに見つめる。
あっこれだ…
僕は先生のこの表情にそそられて…虜になっていったんだ。
あの日からずっと。
「あのっ。」
僕が話し始めたと同時に
コンコン…
保健室のドアがノックされ、3年生の先生と保護者らしき人が入ってきた。
「ちょっと待ってて。」
大野先生は僕に声をかけ、その人たちとともにベッドの方に向かって行く。
貧血やら食欲が落ちてるやら受験のプレッシャーやら話しているのが聞こえてくる。
チラッと目をやると、体を起こしたその人には覇気がないように思えた。
仕方がないことなんだってわかってはいるけど…
それでもなお、大野先生がこの場所で僕以外の人を気にかけ、僕よりもそっちを優先するのを目の当たりにして…すごくさみしい気持ちになった。
僕は先生を虜にできないのかな。