第63章 キミって…
「すごい…なにこれ…。」
大野くんのダンスは軽やかで重量を感じさせないし、ターンは軸がブレないんだ。
「んふふ。どうしたの?そんなに瞳をキラキラさせて。」
「いや…あの…すごいなって思って。」
「そんなことないよ。櫻井くんは…そうだなぁ、ヒップホップとか長い手足を生かして優雅に踊るのもいいかも。」
「ゆ、優雅にって…。」
「櫻井くんだと…こんな感じで。」
おもむろに踊り出した大野くん。
それはまるで…
「なんかさ、王子様っぽいね。」
「あははははっ。王子様かぁ。じゃあさ。今みたいな感じでいいから、櫻井くん踊ってみて。俺はお姫様っぽくするから。」
「えっ…?」
「ほら、早く。」
「あ、うん。」
俺は昔からのせられやすいタイプなんだかわからないけど、いい気分になるとスイッチが入ってしまうんだ。
王子様…王子様…王子様…
上手いとか下手とかは頭から吹っ飛んでいた。
ただ自分のイメージする王子様…いや途中からはなりきっていたかもしれない。
「いい、いい。すごくいいよ。」
そう言う大野くんだって、お姫様にしか見えなくて。
お姫様抱っこをして、クルクルクルッて3回転したりもした。
最後は、手と手を取り合って…見つめあって…そして…
んっ?いま俺、何しようとしてるんだろう…。
そこでハッと我に返ったんだ。
「あっあの…。」
途端に恥ずかしくなって声をかける。
だけど、何故だか大野くんが俺をじっと見つめていて、目が反らせない。
「フィニッシュがまだ。」
「フィニッシュ…?」
「そう。フィニッシュしてくれないと、ずっとこのままでいるよ。」
「あ、うん。」
「王子様はお姫様に、最後は何をしてくれるのかな…。」
大野くんの艶めいた声色と表情、潤んだ瞳にドキン…とした。