第63章 キミって…
「先生もさ、ひどいよね。」
大野くんがポツリと呟いた。
俺はてっきり、プリントのことを言ってるんだと思ったけど、そうではなかった。
「櫻井くんは班長だけどさ、昨日席替えして俺と同じ班になったばかりなのに。」
「あ〜っ、言われてみればたしかに。」
「でしょ。今から担任の所に行こうか。」
「いやいや、大丈夫だから。ありがとう。」
抜いた草をポイッと放って急に立ち上がるからかなりびっくりしたけど、気にしてくれて嬉しい。
「そういえばさ、前の班の班長って誰?」
「えっとねぇ…。あれ?誰だったかなぁ。」
首を傾げる大野くんを見て、思い出したらでいいよって伝えた。
残りの草も取り終えると、何だか達成感を感じて清々しい。
「お疲れ様、大野くん。」
「うん。ありがとうね、櫻井くん。」
大野くんの頬から顎に流れた汗がポタッと垂れる。
それが妙に色っぽくて。
ドキン…
俺の胸がまた跳ねたんだ。
二人で軍手を外しながら水道に向かった。
汚れを落とす大野くんの手は、指が長くて綺麗だなって思った。
さっきまで、草をかき分けて茎を掴み、引っこ抜く…を何度も繰り返していた手。
そして、顔や首筋にかいてる汗。
頭の中に、男のあの光景が浮かんできて…体がズクンと疼く。
やべっ…違うこと考えないと。
そんなことを思っていると
「あっ。」
大野くんが突然声をあげるから、俺の心の声が聞こえてしまったんじゃないかと、内心焦った。
「俺だ。」
「ん?」
「班長ね、俺だった。」
「班長、大野くんだったの?」
「そう。今ね、思い出した。」
「あはは。そっかぁ…それなら今の班長に声がかかるよね。1人で草むしりするの、大変だもん。」
「うん、ありがとね。」
「いや、俺はそんな。班長だし…。」
「櫻井くんで良かったぁ。」
「えっ…。」
「草むしり、案外楽しかったなぁ。」
そう言いながら校舎のほうに歩き出したキミ。
深い意味はないんだろうけど…俺の胸がキュンとして、うるさいくらいにざわついたんだ。