第63章 キミって…
ザクッザクッ…
「ふぅ…暑っ…。」
草むしりなんて慣れてないし、不器用な俺はコツをつかむのに多少時間がかかってしまった。
額や背中からジワジワと出る汗が気持ち悪い。
軍手をはめている手も湿っている。
それに、しゃがんでいるから足も痛い。
「あと少しだから頑張れよ〜。」
そう言って担任は扇子でパタパタ扇ぎながら、校舎の中に入っていった。
俺はその背中に、心の中でアッカンベーをした。
「櫻井くん。」
背中越しに大野くんが俺を呼んだ。
しゃがんでいる体勢で後ろを振り向くのは、今は正直辛い。
「なに?」
俺は大野くんに背を向けたまま返事をした。
「巻き添えにしちゃってごめんね。」
「あぁ…うん。」
夏休み数日前に、担任はこう言ったんだ。
“宿題を出してない奴がいたら、そいつと…そうだなぁ。班長も一緒に中庭の草むしりをしてもらおうかな。”…って。
「あのさ…どうして宿題…。」
事情があるにせよ、俺はそれを聞いてもいいと思った。
「全部やったんだけどね、1枚残ってたみたい。」
「…ん?どういうこと?」
俺はちゃんと話が聞きたくなって、ゆっくり大野くんのほうに体を向き直した。
「数学のプリントがね、机の中に入ってたの。」
「数学の…。夏休みに入る前の日に配られたものがあったね。」
「前日?そっかぁ。俺、風邪で休んでた。ふふっ。」
ふふっ、って…。
「行こう、担任の所に。」
「えっ。いいよ、もう。草むしりもさ、あとちょっとで終わるし…。」
「だってさ、休んでて手元に届いてなかったんでしょ?」
「うん。だけどプリントに気づいてもやる時間がなかったし。遅刻ギリギリで来たから。」
「それはそれ、これはこれだよ。早く終わらせてさ、担任の所に行こう?」
「うん。じゃあ…そうしよっかな。」
それからは、二人で並んで草むしりをした。
「大野くんてさ、意外と頑固なんだね。」
「うん、たまに言われる。」
ふにゃんと笑う顔は、やっぱり可愛らしくて。
ドキン…ドキン…
俺の胸は落ち着かなくなってきたんだ。