第62章 Jさんのお誕生日に…
最初こそは、櫻井くんの隣りで過ごせることが嬉しかった。
だけど、日が経つにつれて、櫻井くんは表面では笑っているようには見えても心からは笑えていないように感じてきたんだ。
「大野くんがいないと寂しい?」
「えっ…。あ…うん。そうだね。」
俯いた櫻井くんが儚くて。
「俺にすればいいのに。」
思わず言ってしまったんだ。
櫻井くんは俯いたままで何も言わなかった。
夏休みになり、大野くん以外のメンバーで集まって、映画やボーリングに何度か行ったりした。
その後も櫻井くんは、変わらずに接してくれた。
でも俺にはかえってそれが、もどかしく感じたんだ。
8月末の俺の誕生日の朝、櫻井くんを呼び出した。
「好きなんだ。大切にするから。」
櫻井くんは一瞬顔を歪ませた後、まっすぐ俺を見てこう言った。
「松本くんじゃだめなんだ。」
俺じゃだめ、なんて。
せめて“大野くんが好きだから”って言ってくれたら…。
あはは。
幼稚園の時からモテモテで百戦錬磨の俺が、見事にフラれた瞬間だった。