第62章 Jさんのお誕生日に…
せめて帰りは家まで送らせてほしいとお願いした。
櫻井くん家の近くまで行くと、急に櫻井くんが歩みを止めた。
「どうし、て…。」
離れた所からでもわかる、猫背な後ろ姿がそこにあったんだ。
櫻井くんは目を潤ませている。
可愛いな、ホントに。
「俺に気を遣わないでいいよ。行ってきなよ。」
「…ありがとう。」
それはそれは綺麗な笑みを浮かべて、櫻井くんは駆け出して行った。
俺は…こっそり隠れて二人の様子を見ていた。
「大野くん!」
「あっ…櫻井くん。」
「どうしたの?何かあったの?」
「うん。俺、夏休み明けから登校できそうなんだ。」
「本当に?良かったぁ。」
「でさ…。」
「もしかして…夏休みの宿題?」
「うん、そう。どうしてわかったの?」
「何となく、そんな気がしたから。」
「ふふふ。」
「ふふふ。」
…何だよ、まるで夫婦みたいじゃねぇか。
俺の入る余地なんてないじゃん。
大野くんといる櫻井くんが、本当に幸せそうなんだ。
もしかしたら俺は、そんな櫻井くんの姿が好きだったのかもしれない。
だって、キラキラしてるんだ…すごく。
ずっと、この二人を見守っていくのも悪くないかも。
そう思いながら、俺はその場を後にした。
「もしかして…松本くんから告白された…?」
「えっ…?」
「あの派手な服の後ろ姿…松本くんだよね。」
「派手って…。さっきまで一緒にいたんだ。」
「へぇ…。」
「ち、違うっ。呼び出されて告白されて…それだけだから。」
「で…なんて返事をしたの…?」
「あの…えっと…“松本くんじゃだめなんだ”って。」
「…そっか。じゃあさ、誰ならいいの…?」
「えっと…大野くん…。」
「ん…?」
「大野くんじゃないとだめなの…。」
「俺も…櫻井くんじゃないとだめなんだ…。」
ちゅっ。
どうやら、イチャイチャは続いていたようで。
櫻井くんと大野くんが恋人になった記念日とファーストキス記念日。
それが俺の誕生日であることを、俺は未だに知らないでいる。
いつ?って聞いても教えてくれないのは、俺の誕生日を知った二人の優しさなのかな。
END