第61章 夏の終わりに。
花火大会当日。
前日まで続いていた雨も止み、朝から快晴だった。
電車には、花火大会に行くであろう親子連れやカップル、友達グループやらが次々に乗ってきた。
皆、楽しみにしていたんだな。
そんな俺自身も、先輩との約束の場所に向かっている。
何だか、すごく気合いが入ってるみたいじゃん…。
窓ガラスに映る自分の姿を見て、急に胸がドキドキし始めた。
最寄りの駅で降り、メモに書いてある場所に向かう。
辺りを見回したけど、先輩の姿はまだない。
じんわりとかいていた額の汗をハンカチで拭っていると
「しょーくん…?」
後ろから、あの透き通る声がした。
俺はゆっくり振り返った。
「しょーくん、来てくれたんだぁ。」
近づいてくるその人に、満面の笑みと声を向けられて照れ臭い。
「お久しぶりです、大野先輩。随分と日焼けしましたね。」
「うん。釣りに行ったりしたからね。」
先輩はTシャツにジーンズ姿。
小麦色の肌にVネック。
そこからチラチラ見える鎖骨とペンダント。
それが妙に色っぽく感じてゾクッとした。
「しょーくん、浴衣で来てくれたんだね。」
「あ、はい。」
「すごく似合ってる…綺麗だよ…。」
大野先輩の憂いを帯びた表情にドキリとしたその時、夕陽が俺たちの顔をオレンジ色に染め、辺りにはパン!パン!と花火大会を告げる音が微かに鳴り響いた。