第61章 夏の終わりに。
「あの…?」
聞きなれない声色にちょっとビビって、声が微妙に震えてしまった。
「あはは。そんなにびっくりしないでよ。あのね…。」
今度は俺をじっと見つめてきた。
さっきとは違う意味でドキッ…とした。
綺麗な顔をしてるなとは思ってだけど、改めてよく見るとかなりの美形。
潤んでる瞳なんて、女子より可愛いだろ…。
「ん?見つめてどうしたの?」
「なっ、違いますっ。先輩が見るから…。もう俺、帰りますからっ。」
男の人に対して可愛いなんて思うのは初めての感情で…自分でもかなり動揺した。
「ごめん、ごめんね。あのさ、しょーくんは花火大会は行くの?」
「花火大会?たしか8月末ですよね…。」
「誰かと約束…してる?」
「いえ、まだですけど…それが何か?」
「う〜っ。ここまで言っても中々伝わらないかぁ…。」
はぁ…なんてため息をついている。
「先輩だったら、女子からの誘いがあったんじゃないですか?」
自分でそう言っておきながら、胸がチクッとする。
先輩の顔が一瞬歪んだように見えたけど…気のせいかな。
「誘いは全部断ったよ。男友達からの誘いもね。俺はしょーくんと一緒に花火が見たいから。」
…ん?
「お、お、俺と?」
「うん、そう。だから…OKだったらさ、当日ここに来て。待ってるから。」
先輩は俺の手を取り、小さく折ったメモを握らせた。
そして俺の頭をポンポンしてから、走り去ってしまった。
えっ…
俺は呆然として、その場から暫く動くことができなかった。