第61章 夏の終わりに。
明日から、高校生になって初めての夏休みだ。
背中のリュックと右手の手提げには配布物、いわゆる宿題が入っている。
「はぁ…。」
その量と手足にかかる負担に、自然と足取りも重くなる。
「おーい、しょーくーん。」
「うわっ。」
「んふっ。そんなにびっくりした?」
「すぐ横でそんなに大きな声を出されたら、誰だってびっくりします。」
「え〜っ。走って追いついたんだよぉ。」
「そんなの知りませんよ。」
「照れなくていいのにぃ。」
「照れてないです。」
「んふふ。まぁいいか。」
あっ…
この人、大野智先輩がいる空間には、不思議とフワリとした優しい空気が流れる。
大野先輩は俺が入学してから、何かと声をかけてくる人で…。
本人に対してはどうであれ、俺は大野先輩の纏う雰囲気は嫌いじゃない。
「あれ?先輩、荷物は…。」
「荷物?あ、ウチすぐそこだから。鍵開けてたらしょーくんが見えたからさ、ポイッて玄関にね。」
「近くて良かったですね。」
「うん。立ち話もなんだからさ。しょーくん、ウチに寄ってく?」
「はぁ?寄りませんよ。1秒でも早く帰りたいんで。じゃ、失礼します。」
俺が再び歩き出すと、
「待って。しょーくん。」
「えっ?」
大野先輩にしては珍しく、低めの声で呼び止められたんだ。