第10章 恋ごころ
翌週の当番日になり、僕はドキドキしながらカウンターにいた。
手続き作業をしていると、視界に大野先輩の姿が入った。
図書室に先輩が来るのはいつもの光景なのに、来てくれたんだ…って嬉しくなった。
“またね”って言われたせいもあるのかもしれない。
昼休み終了時間が迫ってくると、みんな教室に戻っていく。
大野先輩も読んでいた本を棚に戻していた。
その立ち姿と横顔がとても綺麗だった。
初めて見た時と同じ姿…僕が大野先輩に惹かれた瞬間だったっけ。
「そんなに見られると穴が開いちゃうよ。ふふっ。」
見とれていた僕は、その言葉で我に返った。
「すみません…。」
「いいよ。嬉しいから。」
そう言いながら、先輩は小さなメモを僕に渡した。
受け取ったメモを開こうとすると
「あっ、それさ、後で見てね」
少し慌てたように言われて、
「は、はいっ」
僕も慌てながら返事をした。
「櫻井くん、図書委員お疲れ様。お世話になったね、ありがとう。」
先輩とこうやって接するのは最後になるんだと思った。
「こちらこそ、ありがとうございました。」
さみしくなって声が震えちゃったけど、ちゃんと目を見て言うことができた。
大野先輩は僕の頭をポンポンして、ふにゃんと優しく微笑んでいた。
『来年の春、キミを待ってる。』
大野先輩、僕がんばります。
待っていてください。
僕はそのメモを生徒手帳にしまった。
胸ポケットが暖かくなるのを感じた。
END
(次ページおまけあり:数年後になります。)