第58章 麗しきかな
「えっ。あ、あの…大野くん?」
先生の身体がビクッとした。
「ごめんなさい、先生。俺…。」
胸がドキドキザワザワして少し怖くなったけど、ここでやめることは考えられなかった。
「ちょっ…。」
俺の方へ身体を向け始めた先生を、壁の角に追いむ。
「櫻井先生…。」
「だ、だめだよ…。こんなこと…。」
「どうして…?」
「大野くんは生徒だし…。」
「それは、教師としての考えでしょ?そうじゃなくて…俺は櫻井翔としてはどうなのかが知りたい…。」
俺は先生の肩を掴んで問いかけた。
先生の大きな瞳が揺れている。
「櫻井翔個人としては…。」
先生の声が震えている。
「人を好きになるのは素敵なことだと思う。だけど…。」
先生の手も、俺の肩をゆっくり掴み始めた。
「やっぱり…生徒と教師っていうのはひっかかっているんだ。」
そこはきっと、譲れない部分なんだろうな。
「櫻井先生。」
「…な、に…?」
「俺は教師としてじゃなくて、櫻井翔という人自身に惹かれて好きに…なりました。」
「あ、ありがとう。」
「俺がこの学校を卒業したら…その時は1人の男として俺を見てくれますか?」
先生は一瞬目を見開いたけど、ゆっくり頷いてくれた。
「ホントに、ホントですか?」
「ホントも何も…いま大野くんが生徒なのが惜しいというか…。」
語尾を濁らせながら話してるけど、櫻井翔としての気持ちがちゃんと届いたよ、先生。