第58章 麗しきかな
普段は特進クラスの先生と関わることはほとんどない。
だから、櫻井先生と話をしたのは初めて。
どんな人なんだろう…。
「大野くんはさ、何回目になるの?」
「あ、あぁ。えっと…俺は今日で6回目です。」
「そうかぁ。ひと通り説明は受けたんだけど…初めてだからさ。」
昨夜は寝つけなくてね…なんて、懐中電灯を着けたり消したりしながら話す先生。
落ち着かないの、わかりやすっ。
「大丈夫ですよ。俺、慣れてるんで。」
「ありがとう。頼りにしてます、大野先輩。」
「先輩なんてそんな…。」
「ふふっ。見回りに関しては大野くんのほうが先輩だしね。じゃ、行こうか。」
「はい。」
1つずつ懐中電灯を持ち、俺たちは職員室を出た。
「あのぉ…櫻井先生?どこに向かうつもりですか?」
隣を歩いていたはずの先生が、気づくといなくて。
振り返ると逆方向にいた。
「あれ?階段は…。」
「階段はこっち…。そっちは行き止まりです。」
「あはは。暗いとわからなくなるものだね。」
タタタッて小走りで俺の方に戻ってくる姿が、妙に可愛らしかった。
「…もしかして櫻井先生は、こういうの苦手ですか?」
「いや、そんなことない…って思う。うん、大丈夫だし。」
自分に言い聞かせるようにしてまた歩き出したけど…
どうして方向転換するかなぁ。
「先生、そっちは行き止まりです。」
「あっ…本当だ。さっきのとこ…。」
見回り、時間内に終わるか不安だけど…櫻井先生とならそれもいいなって思った。