第56章 ボクたちのカタチ
(Oサイド)
明日の朝は会議があるから、夕方には家に戻っていたい。
そう思いながら支度をはじめた。
玄関へ行く途中、翔に声をかけようと俺はキッチンのほうへ向かった。
食べることが大好きで、食べることにも一生懸命な翔。
だけど、今クロワッサンを食べている翔は、心ここにあらずな感じで…ただひたすらかじってるだけなように思えた。
近くに行ってみると、こぼしてるし口の周りにもついてるし。
子どもみたいな姿に、笑みがこぼれてしまう。
「智くん…。」
さっきも感じたけど…
俺を呼ぶ翔の声のトーンが落ちている。
気になった俺は
「ちょっとソファーに行こうか。」
そう声をかけて翔の手を取り、ソファーでは俺の隣に腰掛けさせた。
翔がソワソワしてるから落ち着けって思って、翔の手を両手で包みこむ。
「智くん、出掛けるんでしょ。」
「うん。でもこっちが優先。」
「えっ…?」
「お前の様子がおかしいから。」
「そんなにおかしかった…?」
「気になって、出掛けるどころじゃないし。」
「ごめんね…。でも…嬉しいな…。」
「ん?嬉しいって…何で?」
「智くんが…俺のこと心配してくれるなんて…。」
はにかむ翔の声色が、少し明るくなったような気がした。