第56章 ボクたちのカタチ
(Sサイド)
智くんがいないテーブル。
手を伸ばすと、カップが置いてあった所はほんのりまだ温かい。
何だか胸が苦しくなってきて、涙もジワッと溜まってきた。
俺はクロワッサンを手に取り、ムシャムシャとかじりついた。
智くんと俺との出会いは2年前で、一緒に住みはじめてからは半年が過ぎた。
“いつでも来ていいし、何ならここに住んでもいいけど。”
そう言って、智くんから合鍵を渡された時は夢じゃないかって思うくらい嬉しかった。
嬉しくて泣いてしまった俺に、智くんが優しくキスしてくれて。
ビックリのあまり、俺は更に泣いてしまったんだ。
智くんとキスしたの…あれが最初で…あの後は…キス…してない。
寝室のベッドを大人の男二人が寝ても大丈夫な大きさのものに買い替えてくれたのは智くんだった。
だけど…
考えてみたら、今まで智くんから一度も“好き”なんて言われたことないし“付き合おう”って言われたわけでもない。
あの時のキスは、慰めるためだったのかな…。
一緒のベッドで寝てくれるのも、仕方がないからなのかな…。
合鍵をくれて、智くんと恋人になれたと思ったのは、俺だけ…だったのかな…。
「お前さぁ、カスこぼしすぎ。口の周りにもついてる。」
俺の口元を拭う指…
「子どもみてぇだな。」
ふにゃんと笑う智くん。
出掛け様にそんな風にするなんて…反則だよ…。
「智くん…。」
俺はあなたが、智くんのことが
やっぱり好きで好きで堪らないんだ。