第9章 色を探して
「どうして智くんがこの絵を…?」
「わりぃ。たまたま探し物してたら見つけて。」
「………。」
「いい絵だよ。おいら好きだな。」
「…この絵、が…?」
「そう。特にここ。」
智くんは、薄茶色にしおれたつつじを指した。
俺はびっくりして、暫く言葉が出なかった。
「これ見てね、翔くんは命の儚さとか…生命を大切にしてるんだなって思ったんだ。」
「…俺ね、これ描いた時ね…ありがとうの気持ちを込めたの。」
「うん。」
「それでね…。」
言葉に詰まってしまった俺を、智くんは穏やかな表情でじっと待っていてくれた。
俺はふぅ~っと深呼吸した。
「茶色い花なんてありません、って言われてね…悲しくなったの。悔しくなったの。」
「うん。」
「ここに来たくても思い出しちゃってね、来れなくなっちゃったの。」
「そうだったんだね。」
「でもね、智くんがいい絵って言ってくれたから。1人でもそう思ってくれる人がいて…それだけで十分。ありがとう。」
「それなら良かった。」
「あとね、智くんがいる中学校がよく見える場所だったから大好きだったの。」
「校舎を見るのが好きだったの?」
智くんは口を尖らせながら言った。
「違うよ。校舎っていうか、その中のどこかに智くんがいるんだって想いを馳せてたの。智くんのことを考えてたの。」
「んふふ。」
「俺、変なこと言った?」
「違うの。同じだなって思ったの。」
そう言って、智くんはスケッチブックの中の絵を開いて見せてくれた。