第52章 近くて遠くて
「あ、櫻井。」
「…何?」
「大野が先に帰るからってさ。」
「今日もか…。」
あの日から、智くんにどことなく避けられているような気がする。
一度も一緒に帰っていないし、廊下ですれ違っても足早に過ぎ去ってしまうんだ。
どうしてだよ…智くん…。
夕食と風呂を済ませてベッドに横になった。
思い浮かべるのは、あの日のこと。
…あの時、声をかければ良かった?
…帰らなきゃ良かった?
だけどそれは過ぎたことであって。
これから俺はどうすればいい?
友達としてならずっと一緒にいられるんじゃないかって思ってた。
だから敢えて気持ちも伝えてなかったし、智くんに触れることもできるだけ控えてきた。
だけど…
友達であっても、ここ最近のように関われない日がある。
智くんにとって優先するべきものができたら…
もし智くんに恋人でもできたら…
友達の俺より恋人を選ぶかもしれない。
そうなったら俺は…。
卒業まであと半年。
このままはイヤだよ。
俺はスマホをタップした。
『はい、もしもし…。』
良かった…電話に出てくれた。
久しぶりに聞いた智くんの声。
それだけで涙が出そうになってきた。
『しょーくん…?』
「智くん、寝てた?」
『うーん…寝ようとしてた。』
「そっか。ごめんね、こんな時間に。」
『んふ。まだ21時だけど』
「いつもはもう寝てるじゃん。」
『そうだね。…どうした?って…俺のことだよね。』
「うん…。」
『しょーくん。明日さ…ウチに来れる?』
「えっ。」
『んっ?』
「俺と会ってくれるの…?」
『うん。声を聞いたらね、しょーくんの顔が見たくなっちゃった』
だったら何で避けてたんだよ、って頭をよぎった。
でもそれ以上に、目の奥と胸にグッと熱いものが込み上げてきたんだ。
「うん、うん、うん。わかった。行くね、明日。」
『うん。待ってる。』
電話を切った後も、嬉しいのと不安なのとで、胸が張り裂けそうだった。
俺は気持ちを落ち着かせたくて、枕をギュウッと抱えて顔を埋めた。