第52章 近くて遠くて
暫くすると、部屋に近づく足音がドアの前で止まり、カラカラと氷のような音がした。
俺はドアが開けられるのと同時に
「ふぁ~っ。少し眠っちゃったみたい。」
って伸びをしてみせた。
「んふ。翔くん、気持ち良さそうに眠ってたね。喉乾いてきたから、ジュース入れてきたよ。」
「ありがとう。さすが智くん。気が利くね。」
「でしょ。」
智くんがジュースを2つ、ローテーブルに置いた。
その手からは、石鹸の香りとともに、あの青臭い匂いがフワッと微かにした。
ジュースを置いた後、智くんは窓のほうへと向かった。
「空気の入れ替えするね。俺、寝汗かいたみたいでさ。」
「ありがとう。俺もそうみたい。」
俺がはだけているシャツの胸元のところを手でパタパタ扇ぐようにすると、智くんの視線が一瞬そこに向き、そしてまた直ぐに窓の外に向けられた。
風が入るとともに青臭い匂いが薄れていく。
「智くん、ジュースもらうね。」
「どうぞ。」
ニコッとしながらローテーブルに戻ってきた智くん。
「智くん、寝癖ついてるよ。」
「マジかぁ。」
どこ?って首を傾げる姿が可愛らしくて。
さっき耳にした音や声、匂いはもしかしたら夢だったんじゃないか…って思えてきたんだ。