第52章 近くて遠くて
俺はそっと手を伸ばした。
トクン…トクン…
智くんの頬から唇に、震える手でゆっくり触れてみる。
初めて触れた、智くんの頬と唇。
こんなに柔らかいのかぁ。
…もう誰かに触れさせたの?
…この感触を味わった人っているの?
そんな風に思っていたら、智くんの身体がピクッと動いて…俺は咄嗟に伸ばしていた手を引っ込めた。
しばらく見ていたけど、起きる気配はなくて。
俺は、胸の鼓動と智くんに触れた手に熱を感じながら目を閉じた。
…ん?
何か…聞こえる…
グチュグチュという音と…
「まだ…起きないでっ…しょーくん…はぁ、はぁ。」
智くんの声…?
目を開けて確かめたいけど、ドキドキして開けられない。
「はぁはぁはぁ…。しょ、まだダメ…起きちゃ…。」
これって…
俺はドキドキが止まらなくなった。
「んっはぁ…はぁ…。ごめっ…しょ、くん…。」
えっ…
どうしよう…。
「はぁ…はぁ…はぁ…あぁ…あっ…。」
智くんの声がそこで途切れた。
キィ…パタン…。
ドアが閉まる音がして、ゆっくり目を開けた。
この青臭い匂い…
男の…ソレ…だよな。
俺のシャツのボタンが幾つか外れてて、胸元が少しはだけている気もする。
智くん、もしかして…
俺を見てシテたの…?