第51章 Nさんのお誕生日に…
気配を感じたのか、翔くんが後ろを振り返った。
ドアの隙間から見ている俺と目があったけど、翔くんは何も言わずにまた窓のほうを向いてしまった。
窓の月明かりに照らされている背中。
俺はゆっくり近づいて膝まづき、翔くんを後ろから優しく抱きしめた。
「俺が…泣かせたんだね…。」
さっき振り返った時、翔くんの目尻が光っているのが見えた。
「智くんは…。」
「ん?」
「智くんは…俺に謝るようなことしたの?」
翔くんが、ゆっくり落ち着いた声のトーンで話す。
「ううん…してないと思うけど、翔くんにイヤな思いをさせたかなって。」
「イヤな思いか…。イヤな思いっていうよりも…不安、そう、不安な気持ちでいっぱいだった。」
翔くんが俺の腕をそっと包む。
その手はヒンヤリとしていた。
俺は、翔くんの前で組んでいた腕を外して、翔くんの手を包み返し、それをゆっくり恋人繋ぎにした。
6月とはいえ、夜は冷える日もある。
「智くんの手、温かいね。」
背中越しだけど、翔くんがクスッと笑うのが微かに聞こえた。
顔が見たいよ…翔くん。
「翔くん、こっち向いて?」
だけど翔くんは首を横に振り、俺のほうには向いてくれない。
「ダメなの?俺のこと見てくれないの?」
すると、翔くんが身体を震わせているのが、背中越しから伝わってきた。