第51章 Nさんのお誕生日に…
翔くんに電話したけど繋がらない。
メールも入れてみたけど、返信がない。
翔くんの家に行き、合鍵で中に入ってみたけど…そこには翔くんはいなかった。
今朝、二人で家を出た時のままで、翔くんが帰宅した形跡もない。
ふと時計を見ると、日付が変わってしまっていた。
翔くん…。
あと、考えられるのは俺の家。
俺はタクシーで急いで自宅に向かった。
玄関のドアをそっと開ける。
すると、きちんと揃えて置かれている翔くんの靴が見えた。
いた。
だけど、ホッとしたのは一瞬だけ。
目の前には、愛しい人の存在はここにあるはずなのに、明かりをつけていない真っ暗な空間。
それが愛しい人の…翔くんの気持ちを現しているように感じて、胸が苦しくなった。
イヤな思いをさせてごめん。
早く会って顔がみたい。
抱きしめてあげたい。
でも、リビングのソファーにも、寝室にも翔くんの姿がない。
気づくと、翔くんのスマホがキッチンのカウンターの上で点滅していた。
スマホを持ち込めない場所かと思い、バスルームに行ってみたけど…そこにも翔くんはいなかった。
残るはアトリエとして使っている、奥の角部屋だけ。
いてくれ、翔くん。
部屋の前に行くと、ドアが少し開いていた。
そっと覗いてみる。
そこには体育座りをして窓のほうを見ている、翔くんの後ろ姿があった。
その儚げな佇まいに、俺はヒュッと息をのんだ。