第50章 かき氷のように
「翔。」
俺が手を伸ばすと、翔が顔をこわばらせた。
「あはは。怒ったりしないよ。」
頭をポンポンすると、翔は安心したようにニコッと微笑む。
「翔からね、一緒にお祭りに行こって言われてさ。俺、嬉しかったんだよ?」
「うん…。」
「今さ、体温計と薬、持ってくるから。」
「あ、机の上のケースの中に入ってるから…お水だけ持ってきてもらえるかな。」
「んふふ。了解。」
水を持って戻ると、思っていたより翔の熱は高かった。
身体を起こして薬と水を飲む翔。
ゴクッと音がするのと同時に動く、男らしい喉仏につい目がいってしまう。
「ん?智くん?」
「何でもない。ほら、冷えピタも持ってきてあるから。」
「ありがとう。自分で貼れるから。」
「そう?」
冷えピタを受け取った翔が、自分のおでこにそぉ~っと貼っている。
ふふっ。何で斜めになるかな…。
翔は容姿端麗・頭脳明晰。性格もいい。
なのにちょっと不器用なところが魅力的で。
翔の「智くん」って独特のイントネーションが好きだから“お兄ちゃん”とは呼ばせていない。
俺にとっては自慢の弟であり、大切な……。
「大学行ってくるけど大丈夫?レトルトのお粥とか、キッチンに用意はしてあるけど。」
「うん…。温めるだけのものなら、自分でできるから、心配しないで。」
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
翔の熱は一旦下がったものの、翌朝からまた上がってきた。
今日は近所でお祭りがある。
「ごめんね、お祭り…。」
「気にするなって言ったろ?」
「でも…。じゃあさ、何か俺の好きそうなものを買ってきてもらえると嬉しいな」
「うん。わかった。」
お互い頑固だから…。
とりあえず俺がお祭りに足を運べば、翔は納得するんだろうな…って思ったんだ。