第49章 いつもの日常の中で
「智くん。ありがとう。あの、ね…。」
「うん?」
智くんが俺を抱き締めていた手を肩に移動させながら身体を少し離し、俺を見つめる。
あ、どうしよう…。
ちゃんと言ってあげたいのに、声が震える…。
「さとし、くん。」
「んっ?」
いつも以上に、智くんの眼差しと声色が優しい。
「好きな人…にね、こうやって見つめられ…てさ、泣きそっ…になるのって変、なのかな。」
目の奥がジーンと重くなってきて、涙が滲んでくる。
「おかしくないよ。」
「ほんとっ、に?」
「うん。あはっ。もう、しょーくんは…。」
智くんが親指の腹で、俺の目尻を拭った。
「智くん、ありがと。」
「んふふ。」
「俺ね、今日ね、ちゃんと…気づいたんだ。」
ふぅ…。
「智くんが好き。」
智くんの瞳が揺れている。
「んふ。ありがと。」
お互いひと呼吸おいて
自然と顔が近づきあって
唇の先がちょん、と触れて一旦離れて
ちゅっ。
唇が重なった。
俺たちの…智くんとの初めてのキスは、可愛らしくてドキドキして、じわ~っと胸が熱くなったんだ。
照れくさくて智くんの顔が見れない。
「しょーくん、可愛い。」
「可愛くなんか…。」
「しょーくん。」
智くんが俺の下顎に手をかけた。
うわっ、うわっ、うわっ…
ビックリしたのもあるけど、それ以上に期待で胸がギュッとして鼓動が高鳴る。
智くんのプルっとした唇…
この唇にもう一度触れたい…
俺は智くんの頬を両手で包んだ。
智くんのもう片方の手が、俺の後頭部に回る。
一気に顔が火照ってくる。
今度は始めから押し当てるように唇を重ねた。
お互いの唇の感触を確かめあうように。
ちゅっちゅっと啄むようなキスから、ちゅうっと深いキスに変わっていったんだ。