第49章 いつもの日常の中で
10分くらいすると、智くんがウチにやってきた。
「いらっ…お、お帰り。智くん。」
「た、ただい…ま?」
「あはっ。“ま?”って疑問系じゃん。」
「しょーくんがいきなり言い直すんだもん。」
「だってさぁ。ほら、今日は帰った時に誰もいなくて言ってもらえなかったし…なんてね。俺もさ、急に思いついたんだよ。」
智くんが靴を脱いでスリッパに履き替える。
「んふふ。しょーくん、優しいね。」
「そう?」
この後の智くんの言葉は大体予想がつく。
だから…
俺は敢えて先に歩き出した。
心の準備が必要だったから…。
「しょーくん大好き。」
予想通りの言葉と、後ろを歩く智くんの足音。
距離的には1mくらい開いているかな。
俺は自分の左胸に右手をあてた。
そして智くんに背を向けたまま、
「俺も好きだよ、智くん。」
面と向かってはまだ恥ずかしいけど…
言っちゃった…
言っちゃったよ。
キミに…聞こえただろうか。
リビングに続くドアノブに手をかけた時。
パタパタと小走りする智くんの足音が真後ろで止まり、俺の腰に智くんの手が回ってきた。
背中に感じる智くんの体温。
俺の身体も熱くなっている。
「しょーくん。」
「ん?」
「んふ。しやわしぇ。」
「あはは。言えてないし。」
「…いいの。しょーくんに伝わってれば。」
智くんの甘く切ない声に胸が熱くなる。
俺はお腹の前で組まれている、智くんの手をキュッと握った。
しやわしぇ…幸せ…
背中から俺を包んでいる大きな温もりに、何だか涙が出そうになった。