第49章 いつもの日常の中で
俺は智くんのヨダレを拭こうと、口角から唇に指を当てた。
あっ…柔らかい…。
ぷにぷにしている智くんの唇。
指の腹で押したり、親指と人差し指で下唇を摘まんだりしていたら、
「んんっ…。」
智くんが身じろいだ。
俺は咄嗟に智くんの唇から手を離した。
あ~っ、ビックリした…。
時計を見ると、ちょうど智くんを起こす2分前。
もう一度、智くんの額の汗をハンカチで拭いた。
「智くん、時間だよ。起きて。」
「…ん~っ…じか、ん…?」
「そう。時間になったよ。」
「ん~っ、良く眠れた~っ。」
身体を起こして伸びをする智くん。
「気持ち良さそうにぐっすり眠ってたよ。」
「んふ。だって、しょーくんの膝枕だもん。寝心地いいから。」
「あっそ。」
寝心地がいいって言われても、どう反応したらいいのかわからない。
だからついそっけない言葉になってしまうんだ。
智くんが口元を拭う。
俺はそれを目で追っていた。
智くんの少し濡れている艶々な唇から目が離せない。
「ん?しょーくん?」
「あっ、何でもない。」
立ち上がると、俺の制服のズボンが智くんのヨダレで濡れていた。
ははっ、ヨダレ…つけられたかぁ。
智くんは空を見上げていて、気づいていないようだ。
その肩をトントンと叩き、
「行こっか。」
俺たちは屋上を出て、それぞれの教室に戻った。
今日の俺は、少しおかしいのかな。
今さっき智くんと別れたばかりなのに、妙にさみしく感じる。
俺は席に着いてから暫くの間、智くんの艶めいた唇と指に残る感触に浸っていた。
何だろう…身体が熱いな。
俺はいつもは感じない胸のザワザワを、暑さのせいにしたいと思った。