第46章 不器用な俺たち
ホームに人が少しずつ増えはじめてきた。
「翔くん、あのさ…。」
「な、に…?」
「友達にはしないんだけどさ…恋をした人とね…したいことがあるんだ。」
「うん…。」
「だから…。」
「うん。僕もね、恋をした人となら…。」
手に持っていたジャージを広げ、フワッて俺の背中に掛けるように回す翔くん。
その動きに合わせて、俺たちはどちらからともなく唇を重ねた。
ちゅっ。
触れるだけのキス。
一瞬だったけど、暖かかった。
「また会えるの楽しみにしてるね。」
うわっ。どうしよう…俺。
翔くんの低音で囁く声もマジで…くる。
唇も熱い…。
俺は走り去る翔くんの後ろ姿を、ポーッと眺めた。
あっ、ジャージ。
俺に掛けられたままのジャージ。
結局また俺の元にやってきてしまった。
ふふっ。
俺は袖を通した。
やっぱり、爽やかな匂いがする…いい匂い。
帰りの電車でウトウトしてしまったけど、タイミング良く翔くんからメールがきて、一気に目が覚めた。
たったひと言。
“大好き。”
家に着き、夕食とお風呂を済ました俺は、翔くんとキスした唇を指の腹で撫でながら、さっきの翔くんからのメールを読み返していた。
何気にスクロールしていったら、まだ続きがあったことに気づいた。
“いつか…しよ。男の俺だけど…イヤじゃなければ…。”
翔くん…。
俺はいてもたってもいられない気持ちになって、翔くんのジャージを持って急いで家を出た。