第46章 不器用な俺たち
上目遣いになっている翔くんとの顔の距離が近い。
ここが電車の中じゃなかったら良かったのに…。
「あっ、ごめんね。」
翔くんは自分が俺に凭れかかり、腕を腰に回していることに気づいたようで、パッと離れてしまった。
それが妙にさみしく感じた。
「翔くん、もう着くよ。」
俺がそう言うと、翔くんは紙袋をカバンにしまいはじめた。
ジャージは手に持ったままにしている。
そして、電車の外の景色を見て
「あれ…?智くん、降りなかったの?」
「あ…うん。」
ちょうど電車が駅に着き、二人で一瞬に降りた。
「ちょっと座ろうか。」
翔くんに促され、俺たちはホームにあるベンチに座った。
上下線とも電車が行ったばかりで、ホームには俺たちの他に2〜3人しかいない。
「ごめんね、僕が寝ちゃってたから。」
「ううん。それは大丈夫だから。」
「ホントに?」
「うん、ホントに。」
だけど、胸の高鳴りはなかなか静まらない。
「ねぇ、智くん。」
「ん?」
「ジャージ…智くんの優しい匂いがした。」
「えっ…あ、ごめん。」
「何で謝るの?すごく安心する匂いだよ?」
「でも俺…翔くんのジャージね、2日続けて持ったままベッドで寝ちゃって。」
「あはっ。そうなの?」
何でだろう…思いのほか、翔くんが嬉しそうに見えるんだ。
「さわやかな匂いがするなぁって…手触りも良くてさ。」
「あはは。僕たち、同じことしてたんだね。」
「うん…。」
「そっか。智くんも…。」
そう呟きながら、手に持っているジャージをキュッと握る翔くん。
その頬が赤みを帯びていた。
そして多分、俺も同じ…。