第46章 不器用な俺たち
ジャージを櫻井くんに返すべく、俺は学校の帰りに嵐学のほうに向かった。
俺が通っている高校からは、3駅離れている。
うわぁ、立派な校舎だなぁ。
そびえ立つ校舎は風格があり、学校から出てくる学生たちも、みんな秀才オーラが漂っていた。
俺は学校の門が見えるあたりで櫻井くんが出てくるのを待つことにした。
だけど、1時間経っても姿は見えなかった。
これ以上待っていると、夕飯の時間に間に合わない。
母ちゃん、怒るんだよなぁ…。
俺はしぶしぶ自宅に帰ることにした。
いつもの駅で降りると、何となく見覚えのある後ろ姿の人がいた。
あの撫でた肩はもしかして…
一応その人の顔が見えるところまで来てみた。
やっぱり。
その人に近づくに連れて、胸がドキドキしてくる。
「あの…さくらい、くん。」
キョロキョロ辺りを見回していた櫻井くんが俺の声に気づき、目があった。
やっぱりカッコいいなぁ。
「あっ、昨日の…。」
「はい、そうです。あの…ジャージ、ありがとうございました。」
「ううん。でも良かったぁ、会えて。」
櫻井くんはホッとした表情をした。
「僕、昨日と同じ電車に乗ったんだけどキミがいなくてさぁ。たしかこの駅だったよな…って思って、待ってたんだ。」
「俺のことを?」
「うん。昨日は急いでてさ、名前も聞かずに別れちゃったから…。」
「急いでたのか、どうりで…。あっ、そうそう。キミ、『櫻井』くんでいいんだよね。」
「えっ、そういえばさっきも…何で知ってるの?」
櫻井くんの頬がポッと赤くなった。
「ジャージの左袖に刺繍がしてあったからさ。」
「あ、そっか。」
「でね、姉ちゃんが嵐学のジャージだよって教えてくれてさ。さっきまで嵐学の近くで待ってたんだ。」
「そうだったんだね、ごめんね。」
「ううん。俺もごめんね。あ、俺、大野智です。」
「僕は櫻井翔です。」
「翔くんかぁ。素敵な名前だね。」
「智くんだって、いい名前だよ。」
ふふって笑う翔くんの顔が優しくて…知りあって間もないのに、何だか随分と前から仲良しだったような錯覚をしそうだった。