第46章 不器用な俺たち
帰宅すると、俺を見た姉ちゃんが駆け寄ってきた。
「ちょっ、ちょっと、智。あんた、嵐学(あらがく)に知り合いがいるの?」
「嵐学?あの超頭いいとこの?」
「そうよ。そのジャージ、嵐学のだもん。」
興奮ぎみに話す姉ちゃん。
いきさつを話したら、そのイケメンめちゃめちゃいい人だとか紹介してとか言って、超うるさかった。
名前も連絡先も知らないって言ったら、何で聞かなかったんだって怒りはじめて…。
もし知ってたとしても、姉ちゃんになんか教えないよーだ。
心の中でアッカンベーをしながら、自分の部屋に入った。
そうかぁ。嵐学かぁ。
腰に巻いていたジャージをほどくと、左袖に『櫻井』って金色で刺繍がしてあることに気づいた。
『櫻井』なんて…あのイケメンくんにピッタリの、綺麗な名前だなと思った。
たしかに賢そうな顔をしていたし、あの大きな目とぷっくりした唇が頭から離れない。
んふふ。
ジャージからも爽やかないい匂いがする。
…って、人様のジャージを鼻にあてて匂いを嗅いでいるなんて。
俺、どうしちゃったんだろう。
俺はその夜、畳んだジャージをベッドの枕元に置いて眠りについた。
翌朝。
手に持っているものの手触りの良さで目が覚めた。
俺はいつの間にか枕元のジャージを取って、抱きしめていたようだ。
櫻井くん…
俺がこのジャージを持ってるままだったら、櫻井くんを繋ぎ止めておくことができるのかな…。
いやいや、そんなことダメだろう。
ジャージがなかったら櫻井くんだって困るだろう。
櫻井くん…
キミとまた会って、話をしてみたい。
俺は櫻井くんのジャージを羽織ながら、制服のズボンの破れを自分で繕った。