第44章 溢れる
俺の自宅玄関前までくると、櫻井は緊張した面持ちをしていた。
俺が見ていることに気づくと
「引き返してもいいよって言われたって、僕は引き返さないですから。」
櫻井はそう言いながら、俺にピッタリくっついて玄関に入った。
脱いだ靴をきちんと揃える櫻井はやっぱり好感が持てる。
「僕たち…教え子と先生なんて…いけないことなんですかね…。」
ソファーで隣に座る櫻井が呟いた。
その横顔が儚げで消えてしまいそうで。
「おいで。」
俺が手を差し出すと、櫻井は遠慮がちにその手をとった。
俺はもう片方の手で、櫻井を抱き寄せた。
「好きになってごめんな。」
「センセ…。」
「ホントに…ごめん。」
「大野センセ…謝らないで。」
「櫻井…。」
「僕も…大野センセのことが好き。」
櫻井の言葉に目頭が熱くなる。
「センセが異動するってわかって…避けてた。」
「あぁ…気づいてたよ。」
「でも…辛かったです。」
「俺も…諦めようって思ってたから…。」
「センセ…。」
「だけど…櫻井の姿を見たら、いてもたってもいられなくなって…。」
「追いかけてきてくれて…本当はすごく嬉しかったです。」
「櫻井…。」
「急に腕を掴まれて、びっくりしましたけど…。」
ニヤッと笑う櫻井に、俺の気持ちがほぐれていった。
「ずっとこんな風に触れたかった。」
俺はひと回り小さい櫻井の背中をギュウッと抱きしめた。
「好きなんだ。」
「センセ…好きです。」
潤んだ瞳の上目遣いで俺を見つめる櫻井。
俺はその頬に手を添えて、ぷっくりした赤い唇を指でなぞり、そっと俺の唇を重ねた。