第44章 溢れる
「えっ…?あっ…。」
驚いている櫻井の腕を掴んだまま、比較的人の通りが少ない所に向かった。
「ちょ、ちょっと…センセ、大野センセ…。」
久しぶりに聞いた櫻井の声に、胸がカーッと熱くなる。
「櫻井、櫻井。」
俺は思わず櫻井を抱きしめた。
「セ、センセ。みんな見てます…。」
櫻井は周りを気にして俺の腕の中から離れようとする。
「いいから、気にするな。」
俺は更に強く抱きしめた。
暖かい温もりと、爽やかな匂い。
俺は櫻井の頭に顔を埋めた。
「大野センセ…。」
離れようとする動きを止めた櫻井の身体が、小刻みに震えている。
「センセ…どうして…?」
「俺はっ…。」
「何で追いかけてきたんですか…。」
「櫻井…。」
「こんな風にされたら…僕…。」
震えている声もチラチラと俺を見る表情も、俺の服をキュッと握っている手の指からも、切なげに訴えかけてくる櫻井。
「少し…話をしないか?」
俺の言葉に櫻井は顔をあげて
「はい…。」
と頷いた。
塾の近くで櫻井を待たせて、俺は荷物を取りに行き、再び櫻井の元へ戻った。
「…今日は友達の所に行くと、親に連絡を入れました。」
櫻井が俯き加減で俺に言った。
「友達の…とこに…?」
「だって…。」
「ん…?」
「今から大野センセの家に行くと思ったから…。」
櫻井が照れくさそうに言う。
「…ウチでいいのか?」
ハッと目を見開く櫻井。
「あぁっ、ごめんなさい。僕、勝手に思い込んでて…。」
アタフタする姿が、あぁ可愛いなと思った。
「んふふ。ウチで話そっか。」
「はい…。」
櫻井が頬を赤らめた。
俺の頬も熱くなってきたのを感じた。