第44章 溢れる
あっという間に1ヶ月が経った。
ここでの最後の講義を終えると、俺は生徒たちに囲まれた。
「さみしい。」
「先生のおかげで勉強が好きになりました。」
「また戻ってきてください。」
「楽しかった。」
「ありがとうございました。」
泣いている子達もいて。
「みんな、ありがとな。」
ここでは、俺自身も成長させてもらった。
輪の中にいなかった櫻井が、荷物をまとめてドアの方に向かうのが見えた。
そして一瞬だけチラッと俺を見て会釈をして、教室から出て行った。
もうこれが最後なんだ…。
俺はいたたまれなくなった。
「本当にありがとな。元気でな。」
皆に声をかけ、俺は足早に教室を出た。
頑張れ~って何人もの声が聞こえた気がしたけど…。
空耳でもいい。
その声たちが後押しをしてくれてるように感じたんだ。
塾の入り口には、もう櫻井の姿はなかった。
どっちに行ったんだ…。
周りを見渡す。
人が多い中、櫻井を探し出すのは難しいかもしれない。
そう思った時、車のライトがキミの姿を俺に導いてくれたんだ。
いた。
少し先で信号待ちをしている櫻井。
もうすぐ青信号になってしまう。
俺は全速力で走った。
「待って。」
俺は信号を渡り始めた櫻井の腕を掴んだ。