第43章 俺の隣り
俺は大野から視線を外し、俯き加減で話し始めた。
「顔を見なかったり、話さなかったのは…大野を意識してたからなんだ。」
「意識?」
「うん。好き、だから…。」
「好き…で?」
「そう。好きすぎてさ、顔を見たり話しをするのが恥ずかしくて…。」
大野が黙るから視線を向けてみると、目を丸くしてポカーンとしていた。
「大野?おーい。」
大野の頬をペチペチしながら声をかけると、目をパチパチし始めた。
「夢…じゃないよね。」
「うん。夢じゃないよ。」
「櫻井くん。」
「なに?」
「えっと…嬉しい。」
「あ、ありがとう。」
大野の目がキラキラしている。
「すごく嬉しいから…抱きしめていい?」
「えっ?あっ…。」
俺が返事をしないうちに、大野の右手が俺の背中に回ってきた。
片手は繋いだままだから、抱きしめるといってもふんわりとだけど、ぎこちなさも相まって…手だけじゃなくて胸も顔もじわっと暖かくなってきたんだ。
「ねぇ、僕のことも抱きしめてよ。」
あっ、いけね。
拗ねてるけど甘えたような声の大野が愛おしい。
俺は左手を大野の背中に回した。
「んふふ。あったかいね。」
大野の声と温もりは、陽だまりにくるまれてるみたいな感じがした。
昼休みも残り5分。
「そういえばさ。何か用事あったんでしょ。」
抱きしめあいながら聞いてみた。
「あ、そうなの。数学で分からないところがあったから、教えてもらいたくて。」
「解くの、苦労してたもんね。」
「何で知ってるの?」
「ウーンウーンって唸ってたから。」
「やだな、もう…恥ずかしい。」
「頑張ってるな…って思ったよ。」
背中に回っている大野の手に力が入ったのを感じた。
「あのさ…今日の帰り、ウチに来てくれるかな。教えてもらいたくて。」
「今日…?あ、うん。いいけど…。」
「じゃあ決まりだね。教室に戻らないと。」
手を離すのは勿体ない気がしたけど、心は幸せな気持ちでいっぱいだった。