第42章 時の過ぎゆくままに
僕は椅子から落ちそうになってビックリしたのは勿論だけど、咄嗟に右肘と腰を支えてくれた智くんの力強さと背中から抱きしめられたような感覚にドキドキした。
「ごめんなさい、ありがとうございます。」
「大丈夫?ケガはしてない?」
「はい…本当にありがとうございました。ケガはしてないです。」
「それなら良かった。」
智くんはふにゃんと微笑んだ。
ひとつ間違えればケガをしてたかもしれない。
だけどこのハプニングを嬉しく思ってしまう僕は…おかしいのかな。
智くんに触れられた右肘と腰が熱くて、ドキドキはいつまでも続いていた。
本に目を通しながら、智くんにチラチラっと視線を向ける。
集中している時の癖なのかな…綺麗な横顔なのに唇を尖らせながら本を見ているのが、可愛らしいなと思った。
ページをめくる手の指も長くて綺麗で。
「ん?どうしたの?」
智くんから声がかかってビクッとした。
見とれてました、なんて言えない。
「えっと…あ、仏像に興味あるんですか?」
咄嗟に智くんの手元にある本が目にとまった。
「うん。これはね、四天王って呼ばれてるんだ。役割もあるんだよ。」
「へぇ…。」
「えっとねぇ、これは…。」
智くんが説明をしてくれようとしたら、向かいの席の人が咳払いをした。
そんなに大きな声で話していたわけではないけれど…その人にごめんなさいと会釈をして、智くんと肩をすくめあった。
今までの僕だったら、図書館で会話するなんてあり得ないことだった。
どうして話をするんだろう…ってどちらかといえば不快に感じてたのに。
智くんといると、はやる気持ちを抑えきれない自分になっていることに気づいた。