第39章 甘い果実
「ねぇ…大野さん。」
俺を呼ぶ櫻井の声が甘い。
「この苺…甘いと思いますよ。」
更に甘さを増す櫻井の声。
櫻井は手に取った苺を縦半分にかじり、もう半分を俺の口の前に差し出した。
そして蕩けるような目で俺をじっと見る。
俺は…
目の前のそれが欲しいんだ。
差し出された苺を、俺は櫻井の指ごとくわえた。
一瞬ビクッとした櫻井。
苺を食べながら櫻井の指を舐めていく。
目を細めたり瞑ったり眉間にシワを寄せたりする櫻井の表情に、俺もそそられた。
口の中の苺はもうない。
だけど、櫻井の指がいつまでも甘くて…甘くて…
ハッ
俺はその指を口から離した。
「ごめん、痛めた指だったよな…。」
「大丈夫です。力は入れていないし、大野さんの口の中と舌が温かくて…痛いどころかすごく気持ちがよくて…。」
大きな目を潤ませながら言う櫻井が愛おしくなって、思わず俺は抱きしめてしまった。
櫻井も遠慮がちに俺を抱きしめ返してきた。
「大野さん…あの時から…医務室に運んでくれたあの日から…僕の頭の中は大野さんのことでいっぱいなんです。」
「櫻井…。」
「イチゴ狩りでぶつかってしまったのは本当に偶然でしたけど…。」
櫻井は俺の首筋に顔を埋めた。