第39章 甘い果実
帰路の状況から、櫻井と俺は俺の自宅へ向かった。
ウチに櫻井がいる…。
「あの…お気遣いなく。」
キッチンでゴソゴソしている俺に話しかける櫻井。
ソファーから俺の様子をうかがう姿が小動物みたいで、すごく可愛い。
俺は洗った苺を入れた器、フォーク、練乳を用意してテーブルに運んだ。
うぉっ。
さっきまでは見えなかったけど、櫻井が俺の愛用のクッションを抱えてるじゃないか。
「ねぇ、大野さん。このクッション…甘い香りがしますね。」
「そ、そう?」
「はい。何だろうな…甘酸っぱい…。あっ、苺です。苺みたいな香りがします。」
櫻井がクッションを鼻につけてスーハーしている。
うぉっ。やべぇ…あのクッションになりてぇ…。
櫻井の唇に見立てた苺とのキスの後に、櫻井を抱きしめるシュミレーションをするのがそのクッション。
俺はそのクッションを密かに“しょうくん”と呼んでいるんだ。
櫻井がしょうくんを抱えている…写メに撮りたいのをグッと我慢した。
「さっ。食べようか。」
「はい。いただきます。」
きちんと両手を合わせて言う櫻井を見習って、俺も両手を合わせた。
器に5個ずつのせた苺。
1つ目の苺が練乳につけられ櫻井の唇に運ばれていく。
「ん~っ。やっぱり美味しいですね、大野さん。」
苺のような唇が苺を…
ボーッと見ていた俺は、自分の苺を口に入れ損ねた。
テーブルにコロッと転がる苺。
「あはは。何やってるんですか、大野さん。」
笑いながら、転がった苺を拾った櫻井は
「はい、どうぞ。」
その苺をニコニコしながら俺の口の前に差し出した。