第36章 桜筏(さくらいかだ)
1年前…
高校生になって初めてのデートの日。
この公園で桜を二人で見たいねって言ってたのに、前日の夜から雨が降り続いていた。
「桜が見れないね。」と言った俺に、翔くんは「いつもと違った桜が見れるよ。」って言って、予定通りこの公園に来たんだ。
二人で傘をさして、人がまばらな公園内を歩いて。
そして翔くんが連れて来てくれたのが、この池だった。
水面に桜の花びらが帯状に連なって、ゆらゆら流れていくのが綺麗で。
俺は引き込まれるように、その様子を見ていた。
「これはね“花筏(はないかだ)”っていうんだよ。」って翔くんが教えてくれた。
俺が「翔くんと…櫻井翔くんと一緒に見た花筏だから“桜筏(さくらいかだ)”だね。」って言ったら、嬉しそうに微笑んでくれて。
回りに人がいなくて、翔くんと二人きりなことに急にドキドキし始めた。
翔くんの顔をチラッと見たら、翔くんも俺を見ていて…俺は自分の傘を閉じた。
「どうしたの?」って不思議そうな顔をした翔くん。
そして…傘をかざしてくれた翔くんの赤い唇に吸い込まれるように
ちゅっ。
ってキスをしたんだ。