第36章 桜筏(さくらいかだ)
2週間前には満開だった桜。
ここ3日ほどの強い風で、葉桜になりかけている。
地面には散った桜の花びら。
一年でこの時季にしかないピンク色の絨毯を、ゆっくりゆっくり歩く。
園内にはわりと多くの人がいて、それぞれが桜を楽しんでいるように思えた。
トントン…肩を叩かれた。
ハァハァと小さく呼吸しているのが聞こえる。
この息づかいと爽やかな匂い…
時計にチラッと目をやると、あれから7分。
急いでくれたんだ…。
はやる気持ちを抑えながら振り向くと
「智くん、お待たせ。」
やっぱり。
桜のように綺麗な翔くんがいた。
翔くんとは中学で知り合った。
そこにいるだけでキラキラしている翔くんに、一瞬で心を奪われた。
ずっと見ていたからか、バチっと目があって…心臓が飛び出るかと思うくらいバクバクした。
翔くんは俺のほうに近づいてきて「ネクタイ、曲がってるよ。」って教えてくれて。
自分でやろうとしたら、目の前にいる翔くんの綺麗な手がネクタイに伸びてきて、直してくれたんだ。
それがきっかけで仲良くなって…好きになって…。
中2の秋にダメもとで告白したら、翔くんも同じ気持ちだったって言ってくれて…両思いだったのが嬉しくて。
頭の良さが違うから高校は別々…たまにしか会えなくなった。
そうして1年が過ぎて…また桜の季節になったんだ。