第33章 キミを見つめて
その時、風がビュウ~ッと吹いて。
桜の花びらが僕のほうに舞ってきた。
「あっ、桜が呼んでる…。」
「ショウくん、行ってきていいよ。また明日来るね。」
智くんはスケッチブックを持って、僕に手を振って帰って行った。
その時、周りの人が不思議そうな顔をしていた。
どこに手を振っているんだ?って思っているのだろう。
僕は智くん以外の人には見えていないんだとわかり、ホッとした。
その夜、僕は桜の妖精の中で一番偉い桜長さまのところを訪れた。
「あの…ある人間の男の子…いや、男の人に、僕の姿が見えているみたいなんです。」
僕は、智くんとの今日の出来事を話した。
「うむ…。」
「どうして見えてるんだろう…って。」
「それはな、その人の心がよほど綺麗なのか…もしくは…。」
「…もしくは?」
桜長さまが言いだめているから、何を言われるのかと緊張してくる。
僕はゴクッと喉を鳴らした。
「その人が…ショウが世話をしている桜を相当気に入っているかだろうな。」
「僕の桜を?」
「そして多分…ショウ、お前のこともな。」
「僕のことも…?」
「そうだ。見えるだけじゃなくて触ることができるっていうのは、そういうことだ。」
「えっ…?」
「ショウも、その人のことを…なんだろ?」
「あの…どうしてそれを…。」
「どちらか一方が好いているだけでは、見えたり触れたりはできないのだよ。」
桜長さまは僕の目を真っ直ぐ見てそう言った。