第29章 素直に言えなくて
(Sサイド)
智くんの部屋には、5枚のキャンバスが並べられていた。
イーゼルにも1枚描きかけのものがあって。
顔はもちろん、手や目、口といったパーツだけのものものあっだけど、どれも俺を描いてるのがわかった。
だけど…
絵からはいつも感じるパワーではなくて…智くんのさみしさが伝わってきたんだ。
メールもそう。
『定時で終わったよ』
その一言だけ。
“会いたい”“さみしい”とは、絶対に送ってこないんだから。
智くん、自分でも“うまく描けない”って言ってたけど、キャンバスの中の俺の絵を見てすぐにわかったよ。
楽しい気持ちで鉛筆を走らせていたわけじゃないんだってこと。