第28章 55㎝の空間
「涙…出てる。」
そう言って、櫻井くんは俺の頬を拭いた。
「何でだろう…ごめんね。」
でも、自分ではわかってるんだ。
考えるだけで、自然と出てくるんだから。
櫻井くんは俺が落ち着くのを待ってくれた。
そして再び駅まで歩き出した。
駅まではあと少し。
「ふふっ。さっきさ、大野くん“ごめん”って言ったよね。」
「あっ…うん。」
「最初の約束…覚えてる?」
「ごめん、って言ったら罰ゲームさせる…。」
「うん、そう。」
「何かするの?」
「うーん、どうしようかな。」
いつもの凛々しさではなくて、いたずらっ子のような顔。
へぇ…こんな表情もするんだ。