第28章 55㎝の空間
櫻井くんが目を細めながら、俺の顔に近づいてくる。
勘違いするな、拭いてくれるだけなんだ。
そう自分に言い聞かせた。
俺の顔を拭いてくれているハンカチの柔さと丁寧な手の動き、そして櫻井くんの優しい目…俺はポーッとしてしまった。
もし女の子だったら、すぐにでも抱きつきたくなるシチュエーションだろう。
いや、男であっても、スキンシップが大丈夫な相手だったら…ありがとうってハグしたりできるのかもしれない。
だけど、俺と櫻井くんはまだ全然そんな関係じゃないから…。
「ん?どうしたの?」
櫻井くんの声が優しくて、胸と目の奥がジーンとしてきた。
「どうして泣いてるの?」
えっ…俺、泣いてるの?