第28章 55㎝の空間
「いいの?」
「うん、いいよ。」
「あ、でもさ。駅まで10分ちょっとあるし…。」
「あはは。そんなこと、気にしなくていいよ。ほら、雨足が強くなる前に行こ。」
櫻井くんは、カバンから折りたたみ傘を出した。
「開くから、ちょっと離れてて。」
「えっ、あ、うん。」
俺は櫻井くんから少し離れた。
櫻井くんが傘の柄の部分に触れた…
バサッ
えっ、ワンタッチボタン式…?
「大野くん、いいよ。入って。」
櫻井くんは左手で傘を持っていたから、俺は櫻井くんの左側に向かった。
「ありがとう。ごめんね。」
「だから、気にしなくていいって。もしまた“ごめん”って言ったら、罰ゲームさせるからね。」
櫻井くんが何だか楽しそうに見えた。