第26章 君に触れたくて
帰宅すると、一気に思いが溢れてきた。
はぁ~っ。
俺は理性をおさえるのに必死だったんだぞ。
好きな人を目の前にしてさ、“大野くんは患者さん・俺はナース”って気持ちで何とか乗り越えたんだ。
大野くんのほっぺたにキスしたのだって、ご愛嬌ってことで笑ってすませられたら…って思ってたのに。
唇になんかキスしてきてさ…。
あぁもうっ。
大野くんは翌日退院して、大事をとって2日間休んだ。
そして今日は…一緒に日勤だ。
あっ…。
ロッカー室に入ると、先に大野くんが来ていた。
ふぅ…平常心、平常心。
「おはよう。」
「おはよう。」
「もう身体の調子はいいの?」
「うん。ありがとな。」
「まぁ、仕事として当然のことしただけだよ。」
大野くんがじりじりと俺に近づいてくる。
ドキン…ドキン…
ダメだ。平常心はムリだ…。
「ねぇ。」
「な、なに?」
「お前…櫻井っていいナースだなって思ったよ。」
「えっ?」
「先を見越して用意がいいっていうか。汗拭いてもらったり、枕くれたり、トイレのことも…俺を守ってくれたことも…すごく嬉しかった。」
「あぁ、うん。良かった。ありがとう。」
誉められるのは、素直に嬉しかった。
「櫻井の手や顔が近づく度にさ。」
大野くんの手が、俺の髪を撫でる。
「俺がどれだけドキドキしてたか…わかる?」