第26章 君に触れたくて
申し送りを終えて、ロッカーに行く前に大野くんの病室に向かうと、頭の下に枕をあてて寝ている姿があった。
枕を抱えなくても大丈夫になったのは、呼吸がずいぶん楽になったということ。
喘鳴もだいぶしなくなっていた。
本当に良かった。
それに、枕を抱えてる可愛らしい姿を他の人に見られたくなかったのも本音。
捲れていた掛け布団を直して、声をかけずに離れようとすると、急に腕をつかまれた。
「起きてたの?」
「うん…今、かな?」
「かな?って。もう、びっくりするじゃん。」
「もう帰るの?」
「うん。申し送りも終わったしね。いつまでもウロウロしてると変に思われるから。」
「そっか。」
「なになに?そばにいてほしいの?」
半分本気、半分冗談のつもりで言ってみた。
「うん、そうかも。」
「えっ?もう1回言って?」
「ヤダ。あ~苦しい。」
「誤魔化すなよ~。」
大野くんが目を閉じて黙るから…俺はほっぺにチューしてやった。
「おっ、お前なぁっ…!」
「はぐらかすのがいけない。じゃあね。」
大野くんに背を向けると、再び腕をつかまれた。
「だから、なっ…。」
だから何?って言おうとしたけど、大野くんに唇を塞がれて言えなかった。
「…気をつけて帰れよ。」
ボソボソっと言いながら、大野くんは布団を被ってしまった。