第26章 君に触れたくて
ナースステーションで巡回の記録を終えて、再び大野くんの病室を訪れた。
思った通り、彼は目を覚ましていた。
喘鳴はいくらか落ち着いたようだ。
大野くんは24時間持続で点滴をしているから、そろそろ…したい頃なんじゃないかと思った。
「大野くん、トイレ大丈夫?」
大野くんはベッドから降りようと思ったのか、身体の向きを変えようとしている。
でも少し動いただけでも呼吸状態が悪化して更に苦しくなってしまうのは明らかだった。
「無理はしないで。一応これ持ってきたから。」
尿瓶を見て、大野くんは眉間にシワをよせた。
だけど、状態的に動けないと判断したのだろう。
それをよこせとばかりに、手をクイクイッと動かした。
俺は尿瓶にカバーをかけて大野くんに渡した。
「終わったら、コールしてね。」
大野くんは頷いた。
暫くすると、大野くんからナースコールがあった。
俺が病室に入ると、大野くんは申し訳なさそうにしていた。
気にしなくていいのに…。
大野くんにホットタオルを渡すと、びっくりしたような表情をしていた。
「手を拭きたいかなって思って。」
俺がそう言うと、酸素マスク越しだけど、ふにゃんと微笑んだのがわかった。
まだまだ苦しそうだけど、ふにゃんが見れてちょっと安心した。
その後も、点滴を交換したり定時の巡回などで大野くんの病室を何度か訪れた。
喘鳴はだいぶ落ち着き、熱も徐々に下がってきて、時々ウトウトしている様子もあった。
一度、大野くんからナースコールがあって、呼吸が少し楽になってきたのか、希望でファーラー位にした。
背中をベッドにつけ、枕を抱えてウトウトしている姿は可愛らしくて。
キュン…とした。
朝6時。
患者さんの起床と検温開始だ。