第26章 君に触れたくて
そんな反応をされると、変に意識してしまいそうになるのを必死でおさえた。
「くすぐったい?ごめんね。」
指に触れた肌は熱くて、汗でしっとり湿っていた。
体温計は脇のすぐ下にあった。
「38.8℃か…。」
一度、汗を拭いたほうがいいな。
そう思った俺はあらかじめ持ってきていたタオルを手にした。
俺はまず、大野くんの額を拭くことにした。
「汗、拭くね。」
前髪をそっと上げる。
今までこんな近い距離で顔を見たことはない。
だけど…俺だったら苦しい顔はあまり見られたくないから…手早いながらも優しく拭いた。
額の汗を拭き終わると、なんだか頭の位置が辛そうに見えた。
俺は枕を用意して、オーバーテーブルに置いた。
「大野くん。枕に頭、乗せる?」
そう言い終える前に、大野くんが自ら枕を引き寄せて、顔を横向きにして頭を乗せていた。
枕、用意しておいて良かった。
「呼吸が楽になるといいね。」
そう声をかけると、大野くんは右手の親指と人差し指でOKサインをしてくれた。
「背中も拭くね。」
好きな人の背中にドキドキしたけど、呼吸する度に肩が大きく動くのを見て、早く良くなってほしい気持ちでいっぱいだった。
俺は背中を擦るようにして汗を拭いていった。
「肌着は取り替えなくても良さそうだよ。」
声をかけながら顔を見ると、大野くんは眠っているようだった。
これだけ苦しいから、またすぐ目が覚めてしまうかもしれない。
少しでも長く眠れればいいなと思いながら、俺は病室を後にした。