第21章 君がいいんだ
「いたいた。」「おーい、櫻井!」
近づいてくる人たち。
チラッと翔くんを見たら、緊張で顔がこわばっちゃってて。
大丈夫よ、翔くん。サトコも一緒にいるからね。
サトコは翔くんと指の先だけキュッと繋いでみたの。
一瞬ビクッとした翔くんだったけど、小さく頷いてくれたからホッとした。
「へぇ~。可愛いじゃん。」「彼女がいるって本当だったんだ。」
この人たちが翔くんの同僚さんたちなのね。
でも…なんなの?挨拶も無しにジロジロ見るなんて失礼だわ。
「こんばんは。」
サトコは満面の笑みを浮かべて挨拶したの。
「あ、こんばんは。」「こんばんは。」
うん。やっぱり挨拶は大事ね。
「俺の彼女のサトコちゃんです。」
ドクン…
“俺の彼女”…
「初めまして。サトコです。翔くんがお世話になってます。」
自己紹介の練習したのに…普通になっちゃった。
でも、翔くんがサトコの顔を見ながらニコッとしてくれてるから、これで良かったってことかな。
それに…やっぱりカッコいいよ、翔くん。
顔が熱くて堪らない。
…会話がね、全く耳に入ってこないの。
予想外だわ。
“俺の彼女”って言葉がね
想像以上に胸にきてるの。
翔くんのために頑張らないといけないのに
どうしよう…涙が出そう。
だからなのかな…鼻がムズムズしてきた…
「くしゅん。」
サトコモードに入ってて良かった。
不意に出ちゃったけど今のくしゃみ
可愛かったよね。
「サトコちゃん、大丈夫?寒い?」
「ううん、平気。」
違うのよ、翔くん。
寒いどころか、熱いの。
同僚の人たちは、見せつけるなよ~とか、お熱いね~とか言ってる。
ちゃんと恋人に見えてるってことかな。
でもね、足がちょっと震えて…
ギュッ。
えっ…?
翔くんがサトコの肩を抱いて、自分のほうに引き寄せたの。
サトコの頬が翔くんの右胸にあたってる…。
顔だけじゃなくて、身体中が熱くなってきちゃった。
心臓の音、聞こえちゃうかな。
「わかってくれました?大切な彼女が風邪を引いたら困るので、もう行きますね。」
「あぁ、わかったよ。」「わざわざすまなかったね。」
「いえ…。では失礼します。お疲れ様でした。」
翔くんはサトコと恋人繋ぎをしてくれて…
駅のほうに歩き出した。